前の記事では、インサイドセールスへのAI活用のひとつとして効果的な「ターゲティング」手法について紹介しました。(営業のターゲティング課題をAIが解決~効果的な営業リスト抽出を実現する「AIターゲティング」とは~)
どの顧客にアプローチすべきかは、従来の営業現場では組織の方針や営業担当個人の属人的な判断に委ねられてきました。しかし、そうしたヒトの手によるターゲティングは感覚的な部分が多く、いずれテクノロジーの力に取って代わられる時代を迎えるかもしれません。
この記事では、その先駆けとしてインサイドセールスにAIターゲティングを取り入れ、効果検証を実施した貴重な事例をご紹介します。
目次
インサイドセールスへのAI導入の経緯(SB C&S様の場合)
この記事で紹介するのは、2016年からビジネス拡大のためにインサイドセールスの取り組みをされているSB C&S様の事例です。2018年よりインサイドセールスの次なるステップとして、ブリッジインターナショナルのAIソリューション「SAIN」ターゲティングを採用いただき、AIの効果を実証・検証していくPoC(Proof of Concept)をスタートされました。
※PoCとは、Proof of Conceptの略で、概念実証という意味で使用されます。AI(人工知能)やIoTなど新しい概念を実際の現場で運用し、実証または検証することを指します。
SB C&S様における営業手法の変遷
成果につながらないリード獲得(〜2016)
SB C&S様のビジネス基盤は直接エンドユーザーへの販売は行わないパートナービジネス。自社で獲得したエンドユーザーの情報(イベント/展示会で獲得した名刺・Webの記事広告から獲得したリード)が未活用であったため、パートナー(販売店)へリスト提供するも、案件化率はわずか2%ほど。
インサイドセールスとの出会い(2016〜)
リード獲得の課題解決策として、社内の反対を受けつつもインサイドセールスの導入を開始。インサイドセールス活動の結果、これまでパートナーから「見込みなし」と判断されていたリストの98%のうち、実に43%が案件化の可能性がある「見込み候補」と判明。
インサイドセールスにAIの導入を決意(2018〜)
順調なインサイドセールス施策が続く中、リード肥大化の壁が訪れ、ターゲティング精度の低下が課題に。2018年6月よりブリッジインターナショナルのAIソリューション「SAIN」ターゲティングによるPoCがスタートし、2019年1月より本格運用が開始。
AI導入前の課題|営業リストの肥大化
インサイドセールスを導入した当初4,000件ほどだったリード情報は、コツコツと蓄積を続けた結果26,000件にまで増加しました。営業リストの肥大化により、これまで順調だったインサイドセールス施策は、新規顧客/既存顧客どちらへのアプローチも困難な状況をむかえました。
新規顧客獲得数の伸び悩み
次第にリードの重複が目立つようになり、純粋な新規顧客の獲得が伸び悩むようになりました。ナーチャリング強化が急務ではありましたが、重複を排除しても件数は数千単位。相対的にターゲティングの精度が下がり、キャンペーン企画に対する反応も鈍くなっていきました。
既存顧客へのアプローチ先選定の行き詰まり
新規案件の発掘が困難となり、過去に蓄積したリストから既存顧客を掘り起こす必要がでてきました。しかし、ヒトの経験と勘だけで過去のリストを精査するにはデータのボリュームが大きすぎました。時間と労力がかかりすぎてしまい、アプローチ先選定は限界を迎えていたのです。
こうした課題を解決するため、AIを使用したターゲティングリストの作成を具体的に検討することになったのです。
【事例全文】インサイドセールス業務支援AIソリューション導入によりアポ獲得率1.5倍増 [SB C&S様]
「SAIN」ターゲティングによる3つの効果検証がスタート
PoCの開始後は、すぐに以下の2つに着手し、その後3つの効果検証プロジェクトがはじまりました。
- 過去の蓄積データの整理
これまで蓄積してきたアンケート・コールメモを「企業単位のプロファイル」として情報整理 - 機械学習によるターゲティング
販売パートナーへ案件紹介に「至ったケース」と「至らなかったケース」を学習させ、次にコンタクトを取るべき顧客を抽出
- 過去の蓄積データの整理
AIが抽出したターゲットリストの精度(検証その1)
ひとつ目の検証は、AIが抽出したターゲットリストの精度を確かめるものです。
もともと営業対象リストに混在していた有望見込み客は、SAINによるAIターゲティングを経て、リストの上位に集約されます。そうして見込みの確信度が追加されたリストの上位から、インサイドセールスがコールを実施しました。
結果は、すぐに多くのアポイントが獲得でき、SB C&S様のAIターゲティングを活用したインサイドセールス施策は初めから好発進を遂げたのです。
しかしここで疑問が浮上しました。この結果が、果たして本当にAIの成果によるものなのか?ということです。「そもそもデータ(元の営業リスト)が良すぎたのではないか」「インサイドセールス担当者のスキルが高いゆえの結果ではないか」という、他の要因との関係性を確かめるため、敢えてリストの中位にコールし、検証してみることになりました。
すると今度は、上位リストに比べほとんどアポイント取得には繋がりませんでした。ひとつめの検証は、AIによるターゲティング精度が証明された結果となりました。
ヒトとAIによる顧客の掘り起こし比較(検証その2)
二つ目の検証は、「既存顧客の掘り起こし」のための見込み客予想を、ヒトとAIで比較してみるというものです。
- ヒトが抽出した見込みリスト
- AIが抽出した見込みリスト
どちらの方が高い成果を出せるかの検証です。
この検証では、AIは非常に興味深い結果を示しました。ヒトとAIそれぞれが、見込み度合いが高いと予想したのは以下のステータスの顧客です。
- ヒトの予想:課題ヒアリング済み
- AIの予想:プロファイル獲得済み
一見すると、プロファイルよりも深い情報である「課題」についてヒアリングできている顧客の方が、見込み度が高いと考えるのは当然のように思えます。しかしAIは、課題までヒアリングできていない、プロファイル獲得の顧客へ優先的にアプローチすべきと予想したのです。
ヒトの経験と勘がナーチャリング対象外と判断した顧客を中心としたリストを抽出した結果は、関係者にとっても意外でしたが、AIによるその予想は見事に的中しました。
<検証結果>AIの利用前後で、1.5倍の効率アップ
ヒトによる見込み客発掘
- プロファイル情報取得率75.8%
- 課題ヒアリング率18.7%
- アポイント取得率4.0%
AIによる見込み客発掘
- プロファイル情報取得率 93.3%
- 課題ヒアリング率 29.8%
- アポイント取得率6.2%
AIのターゲティングに影響しているデータの種類(検証その3)
3つめの検証は、AIターゲティングに影響するデータの種類についてです。AIによる顧客の掘り起こし比較によってAIの効果への期待が高まり、さらなる数値目標を掲げることとなりました。しかし、社内に存在する他のさまざまなデータをAIに投入してみても、とても目標達成できるような期待値は得られませんでした。
そこで着目したのは「データの中身」です。検証を進めると、使用するデータの種類が影響していたことが判明しました。AIが正解を導き出すために、特に寄与率が高いデータ項目があることが明らかになったのです。
AIターゲティングに影響の大きいデータの上位項目
- 年商規模
- 業種
- 従業員レンジ
- 案件ステージ/BANTフラグ
- 検討ソリューション
- 案件状況
これらの情報は、日頃の営業活動の中で、営業担当者が積極的に取得したいと考える情報とほぼ一致しています。つまり、これらの情報が揃えば、何かしらの営業の打ち手が決まるデータともいえます。
そして、お金を出せば手に入るという類のデータではなく、インサイドセールスが丁寧にヒアリングを続けて初めて取得できる情報です。AIの分析に寄与率の高いデータを取得するためにも、インサイドセールスとの協働は欠かせないことがあらためて証明されました。
<この検証結果からいえること>
- データ量より、データの種類や質が重要
- AIとインサイドセールスの相乗効果は高い
おわりに
AIプロジェクトは、社内に前例が存在しないことがほとんどです。この記事で紹介したようなPoCであっても、「今回のプロジェクトではこのような結果を得たい」という目的意識や、仮説をもって検証を重ねることが成功のポイントです。
多大な費用やリソースを投入して取り組んだ結果、結局ヒトの手の方が確実だったという結末を招かないためにも、AIの得手不得手を理解し、ゴールを明確にしてから取りかかると良いでしょう。