新型コロナウイルスの流行により、非対面営業が急速に広まり定着しつつある昨今。コロナ禍となる前から営業スタイルは少しずつ変化していましたが、ウィズコロナ・アフターコロナの時代となり、さらなる変革として「営業部門のDX」導入が求められています。
DXの定義は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です(2019年7月/経済産業省「DX推進指標」とそのガイダンス)。つまり、情報技術を活用し、顧客の購買行動や購買導線にあわせて商材やビジネスモデル、組織体制などを変革し、さらに競争力を強化し優位性を確立することといえます。
では、営業部門がDX化を推進していくと、企業にどのような変革をもたらすのでしょうか。本記事では、営業DXの導入を成功させるポイントや、改善できる営業課題、よくある導入の失敗例などについてご紹介します。
目次
営業のDXとは
営業部門のDXとは、自社の営業プロセスを顧客の購買行動に沿って再構築し、デジタルチャネルやデジタルツールを活用することで「顧客の購買行動」と「自社の営業活動」の全体最適を実現することといえます。
インターネット検索やSNSで情報をいつでも取得できる現代では、顧客は、従来のように商品・サービスの営業を対面で受ける必要性がありません。顧客によっては、営業電話や面談を、時間が奪われるため迷惑と感じる場合もあるでしょう。DXが実現すると、対面営業を行わずとも顧客の「購入したい」という熱量が大きくなったことをデータなどで確認できるため、このとき初めて、対面でのアプローチを行うのです。
一方、自社においては、営業パーソン1人あたりの生産性を高めるだけでなく、営業トークや顧客情報のデータ化などにより社内ナレッジの蓄積ができ、あらたな価値を創出できます。たとえば、オンライン会議を導入して交通費や時間的コストを削減しつつ、MAやSFAなどのデジタルツールを利用して顧客管理を行えば、従来より効率的な営業活動となるでしょう。また、今までは営業担当者に属人的であった顧客情報をデータ化することで、顧客対応の標準化や、異動や退職時の円滑な引き継ぎが期待できます。
このように顧客にとっても自社にとっても有益なDXですが、現状では、導入に二の足を踏んでしまっていたり、急遽コロナ禍に対応するため「とりあえずデジタル化をした」だけで満足してしまっていたり、とDXまでに至っていない企業もしばしば見受けられます。
営業DXとデジタル化の違い
「デジタル化」とは、今まで人が行っていた営業活動の一部をデジタルツールが代替することで、効率化やコストカットを目指すことです。従来の営業プロセスをデジタルツールに代替することが目的であり、必ずしも顧客に新たな価値を創出できるわけではありません。
一方「営業DX」では、デジタルツールはあくまで手段で、それらを活用する目的は「自社の競争力を強化すること」です。そのため、顧客の購買行動(カスタマージャーニー)を分析して自社の強みを把握し、営業活動そのものをどのように変革すべきか、どのようにオペレーションするのかを徹底的に社内で検討したうえで、適切なツールを導入します。
なぜ営業部門にDXが必要なのか?
従来、そのほとんどが対面で行われてきた営業活動は、DXからもっとも遠い業務と思えるかもしれません。なぜいま営業部門にDX導入が必要なのでしょうか。
ウィズコロナ・アフターコロナへの適応
新型コロナウイルスの流行により対面営業が難しくなり、急遽リモートワークやオンライン会議の導入が進みました。必要に迫られてツールを導入した企業も多いでしょう。しかしアフターコロナ(ニューノーマル)の時代では、オンライン会議で対面営業を代替するだけでなく、顧客の購買行動に適した営業活動を行うことで、新たな競争優位をつくり自社事業の成長曲線を描く取り組みが必要になってくるでしょう。
生産性・効率の向上
従来の営業方法では、訪問前にあらかじめ見込み顧客を特定することが難しく、多くの労力を割いていました。例えば、1時間かけて訪問したにもかかわらず、担当者が不在で「往復2時間がムダになった」ということもあったのです。
しかし、人口が減少していく日本では営業パーソンの人数もゆくゆくは少なくなっていきます。とはいえ、営業パーソンにその分の長時間労働を強いるわけにもいきません。1人あたりの労働時間は増やさずに、これまで以上の成果を上げることが求められるため、従来の営業活動の非効率な部分を削ぎ落とす必要があるのです。
たとえば、MAでリード(見込み顧客)情報を確認しつつ、インサイドセールスがホットリードに育成することができたとします。この直後に対面営業をすると、受注確度がさらに高まるはずです。また、顧客が必要とするフェーズでのみ対面営業を行うことで、従来に比べてムダ足がなくなり、生産性が上がるといえるでしょう。
属人的な体制からの脱却
営業部門が属人的であるもっとも大きな要因は、顧客や案件の情報が営業担当者のみにあることです。その課題は以下の通りです。
- 急な病気や家庭の都合で顧客対応が難しい場合、他メンバーによる代替対応ができない
- 営業スキルは個人の経験や知識に左右され、成果にバラつきが出やすい
- 異動や退職などによる引き継ぎの際、「現担当と新担当、両方の勤務時間を圧迫する」「現担当による引き継ぎ時の伝え漏れが発生する」といったリスクがある
DXの導入により顧客の情報がデータ化されていれば、急な休暇の際に代替の対応が可能になります。また、商談情報を共有することで営業スキルの標準化ができ、異動が発生した際もスムーズに引き継ぎができるでしょう。
さらに面談での会話もデータ化できれば、上記の問題を解消するだけでなく、顧客の行動や思考の傾向も把握でき、今後の購入予測が立つというメリットがあります。顧客のあらゆる情報を社内で共有できれば、営業部門だけに限らず自社にとってかけがえのない財産となり、強みとなるでしょう。たとえば、製品開発部門は、顧客データから生の声が確認でき、今まで聞こえてこなかった些細なクレーム情報を次の商品開発に生かせるかもしれません。
マネジメントの効率化
従来、管理職にとって、営業担当が顧客とどのような会話をしているのかを把握するには、同行するしかありませんでした。もちろんすべての面談に同行することはできませんので、指導をする場面は限られていたのです。
DXによりオンライン面談が可能になると、顧客オフィスへの移動が必要なく自席で面談に参加できるため、以前に比べて同席しやすくなるでしょう。さらに、同席できずとも顧客との会話をデータ化ができれば、最短で売上に繋がるにはどうしたらいいか指導することもできるはずです。
また、SFAなどのツールを導入すると、案件進捗や顧客情報を統括的に管理することが可能になります。
営業DXを成功させる5つのポイント
DXは、計画なく導入しても成功することはありません。特に営業部門でのDX導入において、成功するためのポイント5つをご紹介します。
1)固定概念を捨てる
従来、「営業は足で稼げ」といわれ、足しげく顧客の元に訪問すればするほど成果につながるという常識がありました。入手した名刺の数や訪問数が多いことが正とされ、その非効率さに懐疑的になることもなかったのです。
まずは、このような固定概念を捨てることが必要です。
また、経営層や部門長が、変化に対して抵抗感があったり、従来の成功体験に固執したりする場合もあるでしょう。「今までの営業プロセスで成功していたから、営業DXでもこの方法を取り入れる」「この商品しか売れないから、これが売れるような営業戦略を取る」などの考えは、一見営業方針として正しいように思えます。
しかし、IT技術の発達により、顧客はインターネット上でさまざまな情報を入手し、自ら購買の検討をするなど購買行動も日々変化しています。顧客の「生の声」や「購買プロセス」をヒアリングし、実態を把握することが非常に大切です。
2)ツール選定・導入から入らない
全体の企画・設計をせずに「ツール選定・導入」から入らないことが肝要です。コロナ禍において「とりあえず」ツールの導入から営業DXをはじめている場合は、早急に見直しを行いましょう。ツールの導入だけに終始してしまうと、「なぜこれを利用する必要があるのか」という目的がはっきりせず、現場の営業パーソンに活用されないままになってしまうことがあります。
3)カスタマージャーニーを作成し、DX全体構想を作成する
特にBtoBソリューションビジネスの場合は、顧客の状況や課題感をよく把握しなければ売上にはつながりません。そこで、顧客が商品を「調査」「比較・検討」する購買プロセスにおいて、どのような思考がはたらいて、どのような行動をするのか「カスタマージャーニー」として把握する必要があります。そのうえで、顧客接点のどの部分をデジタル化するのか検討するのです。
カスタマージャーニーの作成では、実際の顧客にヒアリングし、調査することが一番の近道です。これには長期間かかることもありますが、今まで知らなかった自社の価値や強み・弱みを知ることができるでしょう。
このお客様は営業プロセスのどの段階?「カスタマージャーニー」解説記事はこちら
また、受注後のユーザー体験を時系列でまとめる「サービスブループリント」やDX導入の手順を記した「DXロードマップ」といったDX全体構想の設計をおこなうことで、DX導入の本来の目的の実現と定着を図ります。
4)営業DX推進に最適なチーム作りをする
営業DXの推進では、導入前の準備や導入後のサポートを行う「最適なチーム」を作ることが欠かせません。チームは、経営企画や情報システム部門、営業部門などさまざまな部署から構成されることが一般的です。最適なチーム作りには3つのポイントがあります。
DXの知識がある社員だけを集める必要はない
営業DX推進を効率良く行うためには、知識を持っている社員でメンバーを構成するのが得策だと思ってしまうかもしれませんが、実はそうではありません。顧客との関係を構築してきた経験豊富な営業パーソンは、ITスキルやDXの知識とは関係なくても、「顧客が何を求めているのか」をよく把握しています。営業DX推進にはそのような社員の存在が必要不可欠です。「顧客に寄り添った営業DX」を考えられる社員を選びましょう。
チームメンバーは「営業企画・営業推進」部門が中心
営業DX推進チームのメンバーは「営業企画・営業推進」部門の社員を中心に構成しましょう。これらの部門に属する社員は「営業DXで何をしたいか、どういう営業をしたいのか」を常に考えています。営業DX推進の成功には「現場感」を理解しているメンバーの導入がポイントです。
営業DX推進のチームリーダーは内部から選出
営業DX推進を先導するリーダーは社員でなければなりません。コンサルタントなど外部の力を借りるのは、初期段階だけなど一定期間に留めることをおすすめします。コンサルタントに「自社のDX推進を任せる」というのではなく、「DX推進のアドバイスをもらう」存在とするべきでしょう。
5)運用後は初期構想を定期的にチェックし、修正することを恐れない
多くの時間をかけて設計した「初期構想」は、運用後に変更したくないものです。しかし時が経てば、顧客の購買行動や時流が変わることや、新しい競合が出てくることもあるでしょう。このような変化に適合しないままでは、機会損失につながる可能性があります。
半年に1回など定期的に初期構想を見直し、修正することをおすすめします。「点検して変える」ことで、顧客体験を最大化できる体制を維持できるでしょう。
営業DXの失敗例
営業部門のDX導入を成功させるためには、失敗ポイントをおさえておくことが必要でしょう。そこで、よくある失敗をご紹介します。
全体設計をせずにツールを導入してしまう
よくある失敗の一つは、情報システム部門や経営企画から「ツールを導入するので使ってください」という一方向の指示による導入のケースです。この場合、現場の営業がどのように運用するのかまで検討されないまま導入されることが多く、結局、利用されないということがあります。
顧客がどのように購買行動するのかヒアリングしたり、現場の営業がどのような運用であれば利用できるか、といったことを事前に検討し、それぞれの顧客接点に最適なツールを導入することがポイントです。全体設計を行ってから、「顧客の購買体験の最大化」と「自社の競争力強化」に繋がるツール導入なのかを検討したうえで、実行しましょう。
関係部署の意識が統一されていない
経営企画や情報システム部門、営業部門などさまざまな部署からチームを組み、営業DXを推進することが多いでしょう。そのため、それぞれの立場の違いにより意識の統一がとれないこともあります。統率がとれないまま営業DXの運用が始まると、どこかの段階でトラブルに発展するでしょう。トラブルを未然に防ぐためにも企画側だけの視点だけでなく、各部署の役割を相互に確認し、認識を合わせることが重要です。
おわりに
インターネット、AIなど新たなデジタル技術により、次から次へとこれまでにないビジネスモデルが展開されています。便利なデジタルツールがあれば効率化やコストカットにつながるだろうと安易に導入を進めがちですが、一番大事なのは「顧客の購買体験の最大化」と「自社の競争力強化」です。アフターコロナ・ニューノーマルに備えて、戦略的かつ計画的にDX導入プランを立て、新たな競争優位を構築していきましょう。
導入前に知りたい!営業の効率化と活性化を図る”営業DX”導入成功のカギ
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