インサイドセールスは、顧客を訪問せずに営業活動を進められることもあり、コロナ禍においてますます注目度が高まっています。しかしながら、「テレアポやテレマーケティングとの違いがわからない」「トークスクリプトさえあれば誰でも簡単にできる」といった声も多く、日本ではインサイドセールスの業務内容が十分に浸透していないのが現状です。
この記事では、社内でインサイドセールスを立ち上げる前にぜひ知っておきたい、所属部署による役割の違いや、インサイドセールスに対して抱かれやすい誤解について解説します。
目次
企業がインサイドセールスへ期待すること
インサイドセールスを社内で立ち上げるきっかけはさまざまですが、社内の各部署や置かれた立場によっても期待する役割や効果は異なることがあります。立場による期待感の違いには以下のようなものがあります。
経営層:売上拡大/新たなセールスエンジン/他社と差別化された営業モデル創設
営業:高確度なリード(見込み客)のパス・訪問アポの獲得
マーケティング:プロファイル情報の収集・マーケティングリードの育成
所属組織で違うインサイドセールスの役割
社内のどの部署にインサイドセールスが所属するかによっても、担う役割が変化します。比較的規模の大きな企業では、インサイドセールスだけの独立した専門部署を立ち上げるケースもありますが、多くの中小企業などでは、まずはマーケティング部門や営業部門の中にインサイドセールス部隊を配置するのが一般的です。
大企業でも、いきなり100名規模のインサイドセールス専任部隊を設置する、というよりは、マーケティングや営業部門内への試験導入を経て、徐々に規模を広げていくケースが多く見られます。
マーケティング部門にインサイドセールスが所属する場合
インサイドセールスに期待する役割
- 見込み客の発掘
- マーケティングリードのフォロー
- 個人情報の聴取
- プロファイル情報の聴取
マーケティング部門に所属するメリット
- 新規顧客開拓の先鋒になる
- 市場の声を拾いやすい
- リストの精査/拡大に貢献できる
マーケティング部門に所属するデメリット
金額面での貢献が見られにくい
案件を引き渡しても営業担当がフォローしないケースが発生しがち
営業部門にインサイドセールスが所属する場合
インサイドセールスに期待する役割
- 受注金額の拡大
- パイプラインの積み上げ
- 訪問アポイントの獲得
- フィールドセールス(訪問営業)のサポート
営業部門に所属するメリット
- 売上数字に直接的な貢献ができる
- 訪問営業と連携し、既存/休眠顧客のフォローもできる
営業部門に所属するデメリット
- 営業アシスタントとして使われ、本来の活動ができないケースもある
- 商材知識や業務への習熟度が不可欠
インサイドセールスの本来の役割は「訪問しない営業」
インサイドセールスがマーケティング部門と営業部門に所属する場合の違いについて説明しましたが、その本来の業務は「非対面コミュニケーション」と「データドリブンのアプローチ」を得意とする営業活動です。
非対面コミュニケーション
電話、メール、チャット、オンラインツールなどを使用し、顧客を訪問せずに営業活動を行います。一般的な法人営業のスキルと非対面のコミュニケーション力が求められます。
データドリブンのアプローチ
訪問営業と比較して、アプローチできる顧客数が多いのが特徴です。データを活用したアプローチを得意とし、例えば過去の営業活動履歴やリードのWebサイト訪問履歴・メルマガの開封率など、客観的データを効率的に活かすことが重要です。
所属する組織によって、担う業務を柔軟に変化できることはインサイドセールスの魅力のひとつです。しかし一方で、組織に依存してしまい本来の役割が全うできなかったり、インサイドセールスへの期待が強すぎる場合、思わぬ誤解に繋がることもあるのです。
【参考記事】インサイドセールスとは?その役割・特長と導入の効果を徹底解説
インサイドセールスに対するよくある誤解とは?
なぜインサイドセールスに対して誤解が生まれるのか
インサイドセールスに対する誤解は、立ち上げのきっかけに影響されることがあります。企業によってさまざまですが、その要因は「外的要因」と「内的要因」に分けられます。
外的要因
- 市場の縮小
- 労働人口の減少
- 強力な競合の台頭/参入
内的要因
- トップからの指示
- グループ会社/親会社の指示
- 営業リソースの枯渇
- 旧来の営業手法であるフィールドセールスへの危機感
- 売上の減少
- 特定顧客への依存
特に、トップや親会社からの指示、といった内的要因でインサイドセールスを導入する場合、現場は「よくわからないけれどとりあえず導入する」ケースに陥りがちです。現場の状況や声を把握せずに導入だけを急いでしまうと、期待する成果が得られにくい側面もあります。
テレマーケティングやテレアポ・営業事務(営業アドミ)との混同
インサイドセールスに対するよくある誤解として、テレアポやテレマーケティング、営業事務の役割を担う「営業アドミ(※)」との混同があげられます。
※「アドミ」とは、アドミニストレーションの略で、企業のオペレーションやマネージメントを統括する業務や経営の助言やサポートをするといった意味合いがあります。「営業アドミ」とは、営業事務のように営業部門をサポートするといった意味合いと捉えて良いでしょう。
たしかに電話を使用する点ではテレアポ/テレマーケティングと共通しており、フィールドセールス(訪問営業)の営業活動をサポートするという点では営業アドミの業務によく似ています。しかしその役割や目的はインサイドセールスとは似て非なるものです。
- テレアポ:アポイントの獲得
- テレマーケティング:マーケティング活動に役立つ情報を顧客から聴取する
- 営業アドミ:営業パーソンの事務的な業務や営業活動のサポート
他職種との混同は、インサイドセールスの役割やメリットが正しく理解されていないというだけでなく、営業の戦力として候補に上がらないというもどかしさがあります。たとえ自社の営業課題解決にインサイドセールスがもっとも有効な方法であったとしても、解決の機会を逃してしまっているとも言えるのです。
【参考記事】インサイドセールスとテレアポ/テレマーケティングの違いとは?
インサイドセールスへの過度な期待(スキルや業務内容への理解不足)
次に、インサイドセールスの実務に対する誤解があげられます。
誰が担当しても同じような成果が得られるわけではない
企業によっては「営業スキル平準化」の目的で、フィールドセールス(訪問営業)の研修やコミュニケーショントレーニングの一環としてインサイドセールスが取り入れられることは珍しくありません。
ただしその効果は、担当者がよくトレーニングされ、仕組み化された環境のもとでこそ得られるものです。ある程度の時間をかけてトライアンドエラーを繰り返し、もっとも成果に繋がる方法を模索する必要があります。
そのため、これからインサイドセールスを立ち上げる企業にとっては、はじめから全ての担当者に同レベルのスキルを期待するのは難しいでしょう。
スクリプト通りに会話が進むわけではない
普段の会話がそうであるように、実際のトークはスクリプト通りに運ぶとは限りません。会話の流れから顧客の真のニーズ(顧客インサイト※)を汲み取り、時には案内する商品やサービスを途中で変える、といった臨機応変な対応が求められる場合もあります。
(※)【顧客インサイトに関する参考記事】顧客の深層心理を発見する「顧客インサイト」の重要性
また非対面だからこそ、相手の表情・電話の向こう側の状況などを声色から判断しなければなりません。相手側の事情に合わせて、場合によっては潔く電話を切るという判断力も必要です。インサイドセールスにも、交渉力や高いコミュニケーション能力が不可欠なのです。
インサイドセールス立ち上げ後、すぐに受注数がアップするわけではない
インサイドセールスの立ち上げによって、目の前の売上目標にすぐ直結するような成果が現れることは、そう多くありません。
特に、販売する商品やサービスが比較的高額なBtoB営業においては、受注に至るまである程度時間を要するのは、フィールドセールスもインサイドセールスも同じと考えましょう。
1日に対応できるコール数は20〜30件が目安
「1日中電話をかけ続ければ、100件くらいコールできるのでは?」と思われることもあるようですが、インサイドセールスの活動件数は、1日20〜30件が目安と言われています。
リードの見込み度合いが高くなれば、当然オンライン商談に発展し、顧客あたりの対応時間が長くなります。その場合、1日の対応件数は3〜4件ほどで、フィールドセールス(訪問営業)とほとんど変わりがありません。コール前に資料を作成したり、あらかじめ会話の内容を組み立てたりするなど、事前準備の時間も含めて担当件数を検討しましょう。
【参考記事】インサイドセールスの組織づくりのポイントと担当者に必要なスキル
おわりに
インサイドセールスを社内に立ち上げるきっかけは企業によってさまざまですが、本来の役割を誤解したまま導入を急いでしまうと、期待する成果は得られにくいと言えます。インサイドセールスに対する過度な期待や過小評価は、大きな機会損失に繋がりかねません。
インサイドセールスの特徴やメリットを事前によく理解し、所属組織や担うべき業務を明確にすれば、その効果を最大限発揮できるでしょう。
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