自社の営業部門に対して「組織全体の営業力強化・底上げ」を課題に感じている方は多いでしょう。「個々の営業力にバラツキがある」「散発的な研修をしても成果が見えづらい」といったお悩みもあるかもしれません。
今回は営業部門の組織力強化に効果あり!と国内でも評判になっている「セールスイネーブルメント」について、DXを活用した法人営業改革を支援するブリッジインターナショナル・グループのシニアコンサルタントが詳しく解説します。
目次
セールスイネーブルメントとは?
アメリカで提唱され始め、近年は日本でも注目されるようになった「セールスイネーブルメント」(Sales enablement)について、まずはその定義から解説していきます。
セールスイネーブルメントの意味と定義
「セールスイネーブルメント」のうち「イネーブルメント」(英語で「Enablement」)は「有効化」や「機能割賦」といった意味を持ちます。
国内のセールスイネーブルメント分野における第一人者、山下貴宏氏の著書『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』によると、セールスイネーブルメントとは「成果を出す営業パーソンを輩出し続ける人材育成の仕組み」であると定義されています。
つまり簡単に言うと、営業人材育成のための組織であり、そして取り組みでもあるということです。
具体的な取り組みとしては、
- 組織全体のパフォーマンスを可視化し、営業能力の継続的改善を促す
- 成果を出している営業パーソンの行動パターンや提案書のナレッジを、誰もが使える形にして提供する
- 基礎から実践トレーニングまで横断的にフォローする
- トレーニング・コーチングを個別に行う
といったものがあげられます。
従来の営業トレーニングとセールスイネーブルメントの大きな違い
営業人材の育成というと、ほとんどの方は人事部による新人研修をしたあとに部門単位でOJT等のトレーニングを実施、といった流れを連想するでしょう。
従来の営業トレーニングでは、上司や先輩が新人に対して一通りの営業フローを教え、それにならって活動していき、ときには上司の得意先などに同行して、その振る舞いを見よう見まねで自分の身につけていく、といった方法がスタンダードかもしれません。
一方のセールスイネーブルメントは、実務的な人材育成プログラムの計画・実行・検証のための仕組みであり、営業トレーニングとはアプローチが異なります。営業組織全体のパフォーマンスデータを可視化し、各自がどのタイミングでどういったパフォーマンスを実行すればいいのか、といったことを細かく検証して実行し、適宜フィードバックをおこない、営業成果の効率を最大化していくものです。
従来の営業研修の対象は新卒・中途の新入社員がほとんどでしたが、セールスイネーブルメントの対象は営業組織全体に及びます。
セールスイネーブルメントにはどのような効果があるのか
セールスイネーブルメントは、複雑で細分化した顧客需要を明確にし、営業活動の属人化を防ぎ、営業成果の最適化を促進するものです。セールスイネーブルメントの導入によって、以下のような成果が得られます。
- 個々の営業パーソンが持つ営業力の平準化・底上げ
- 成果の見える化
- 営業活動の最適化・効率化
セールスイネーブルメントが注目されている背景
アメリカ発祥のセールスイネーブルメントが日本でも注目されるようになった背景を覗いていきます。まずはグローバル市場におけるセールスイネーブルメントの導入事例をご紹介しましょう。
グローバル市場におけるセールスイネーブルメントの導入事例
アメリカの営業担当者向け教育提供企業のトップとも言えるミラーハイマングループの調査機関、CSOインサイトが公開した資料「Fifth Annual Sales Enablement Study(2019年版)」によると、以下のようなことがわかっています。
- セールスイネーブルメントの導入率は2013年からの6年間で3倍強となり、2019年には61.3%もの企業が導入している
- 大企業だけではなく、51~250名の小中規模企業でも導入率は7割を超えている
- 導入による効果は、セールスイネーブルメント未導入と比較して成約率が15pt%向上する
出典:CSO Insights 「Fifth Annual Sales Enablement Study」 2019
コロナ禍後である2021年現在のグローバル市場においては、セールスイネーブルメント導入の勢いはさらに加速していると予測できます。
日本でもセールスイネーブルメントが注目されている背景
コロナ禍による顧客購買行動の激的な変化や、就業体制がリモートワークへ移行する、といった動きもあり、日本にもセールスイネーブルメントをはじめとした営業改革の波が押し寄せることとなりました。
顧客行動の変化に伴って、企業は顧客とのあいだに新たな関係性を構築し、提供サービスにも新たな価値を付ける必要が生じています。リモートワーク下では、社内コミュニケーションの手法も以前とは異なり、さまざまなツールを駆使してインタラクション(相互作用)を図る必要があるでしょう。
また、コロナ以前からセールステック(営業効率を高める手法およびツール)は急増しており、営業パーソンにもITリテラシーがより求められる情勢になってきました。
営業パーソンのIT利用|”営業DX”について知りたい方はこちら
「マーテック(マーケティングテクノロジーの略)のゴッドファーザー」とも称されるスコット・ブリンカー氏が公開した最新セールステック・カオスマップによれば、45のカテゴリに1,078ものセールステックソリューションが存在するのだそうです(2021年2月現在)。
出典:More evidence that the Golden Age of Salestech has arrived FEB, 8, 2021
また、当コラムの「国内外におけるインサイドセールス普及の歴史」でもお伝えしたように、アメリカだけでなく日本でも雇用の流動化傾向が強まっています。
以上のような営業課題を解消するソリューションとして、日本でも注目されるようになったのが、セールスイネーブルメントをはじめとする営業改革の仕組みです。
日本のトップ企業はセールスイネーブルメントにこう取り組むべき
アメリカや欧州などと比べ、国内でセールスイネーブルメントを本格的に導入している企業は、まだ多くありません。
しかし先ほどご紹介したグローバル市場の導入率の推移を見てもわかるように、セールスイネーブルメントという取り組みは、いずれ営業力強化システムのグローバルスタンダードとなるはずです。
企業の国際競争力維持や、国内外資系企業への対抗、ひいては国内市場における優位性の確保などの観点から、いち早く日本の企業でもセールスイネーブルメントの導入を進める必要があるでしょう。
それでは実際にセールスイネーブルメントを導入するときの実務を確認していきます。
セールスイネーブルメント実行のフロー
セールスイネーブルメントの実現に向け、以下のようなフェーズで実行していきます。
- 営業データの収集と整備(SFA/CRMツールを活用)
- 兼任または専任部門の設置、人材のアサイン
- プロセス設計
- プログラム開発
- 営業成果の検証・分析
- 経営層へ報告、今後のテーマを検討
ClieXito株式会社制作資料 「セールスイネーブルメント体制構築の検討」より
まずは下準備として、これまでの営業データをSFAやCRM等のツールで収集し、セールスイネーブルメントで求める営業成果を明確にします。次にセールスイネーブルメントの兼任/専任部門の設置、もしくは担当者をアサインし、各工程を関連部門と連携する準備を整えます。「セールスイネーブルメント人材のアサイン要件」についてはのちほど詳しくご説明します。
実行体制としては、以下のようなフローになります。
- プロセス設計:セールスイネブルメントが主体となり、営業やマーケティングなどと協力して設計を行う
- コーチング:セールスイネーブルメントがコーチングのサイクルを設定し、そのサイクルに沿って営業マネージャーが部下に対しコーチングを実施。イネーブルメントが実施状況を評価する
- トレーニング:イネーブルメントがカリキュラムを立案、人事部と協力してトレーニングを開催、営業が受講する。イネーブルメントが受講実績を評価する
- ナレッジ管理:イネーブルメントが企画を立案し、製品主管部署やマーケティングと協力してナレッジを展開。イネーブルメントがナレッジ活用実績を評価する
- コンテンツ管理:イネーブルメントが企画を立案し、製品主管部署やマーケティングと協力してコンテンツ制作を行い、営業向けに展開。イネーブルメントがコンテンツ利用実績を評価する
- システム整備:イネーブルメントがセールステックの選定を行い、情報システム部門と協力して導入。導入後はイネーブルメントが営業への定着化に向け各種施策を実行し、定着状況を評価する
- 検証・分析:イネーブルメントが営業のパフォーマンスを評価。各プログラムとパフォーマンスの相関分析・効果検証を実施し、経営層へパフォーマンスの進捗を定期報告する
このように、営業、マーケティング、人事、製品主管部署、情報システムなど、多くの関係部門の協力が必要不可欠です。
そして営業成果の効果検証・分析のアウトプットを経営層がチェックし、フィードバックを行なってPDCAのサイクルを回していきます。
育成プログラムの企画・コンテンツづくり
「ハイパフォーマーがやっていることは何か」という観点に立ち、営業実践に特化した育成プログラムを企画し、実行していきます。
具体的には、商談化率が高い自社の営業資料や外部資料を集約し、ハイパフォーマーのナレッジ提供や、行動パターン分析などをもとに、育成コンテンツやツールを制作。汎用化・体系化し、営業メンバーの誰もが使えるツールとして提供することを目指します。
さらに、成功事例勉強会や、顧客をスピーカーに招いた事例共有会などのイベントを定例で実施するのもいいでしょう。
「オンボーディング・トレーニング」と「営業トレーニング」
トレーニングでは、社内のハイパフォーマーの知識・経験や、他のチームの成功事例などを体系化し、教育プログラムとして提供します。
トレーニングの種類は、大きく分けて2つあります。立ち上がりのための「オンボーディング・トレーニング」と、売り方や売り物を理解する「営業トレーニング」です。それでは具体的なトレーニングメニューをご紹介しましょう。
オンボーディング・トレーニング
- 会社説明や製品知識といった基本情報
- 営業プロセスの理解
- SFAやCRMといったツールや、コンテンツ、ナレッジの活用法
- フィールドセールスには提案書作成の基礎など/インサイドセールスには商談機会発掘方法など
営業トレーニング
- 案件発掘フェーズ:仮説提案、案件見極め、事例を活用したヒアリング、業務課題への訴求方法
- 案件推進フェーズ:刺さる提案書、ROI提案、競合優位性差別化のポイント、実現による業務の改善効果
- 受注フェーズ:エグゼクティブプレゼンテーション、クロージング交渉、価格の出し方
コーチング実施者は誰がいい?
営業マネージャー自身にまだコーチングの知見がない場合は、ハイパフォーマーや先輩の営業メンバーがコーチングを担当してもよいでしょう。
コーチ自身のコーチングスキルを上げるために、セールスイネーブルメントチームがサポートします。
eラーニングの活用
「セールステックの使用方法」や「コーチングスキルの向上」といった一部のトレーニングには、eラーニングの活用がおすすめです。
トレーニングプランを作成したら、eラーニングの活用も同時に考えましょう。
オンライン研修・トレーニング関連企業のご紹介
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セールスイネーブルメント人材のアサイン要件とは
セールスイネーブルメントは一時的な取り組みではなく、継続していくものです。導入成功のためには、兼任もしくは専任として最適な人材をアサインする必要があります。
セールスイネーブルメントに向いている人材の要件としては、以下のような3つのものがあげられます。
- 営業が好き
- 営業をサイエンスすることが好き
- 人に興味があり、人の成長を支援したい
そのほかに、基本的なコミュニケーション能力や分析思考力、プログラムプランニング能力、体系化スキル、営業理解、経営ニーズ等への理解があればベターですが、上記3つのマインドは絶対条件となるでしょう。
セールスイネーブルメント理解へのおすすめ書籍
「セールスイネーブルメントについてもっと詳しく知りたい」「調べてみて自社に導入できるかどうか検討してみたい」という方は、下記の書籍2冊をおすすめします。
『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』山下貴宏著
大手企業から中堅企業まで、数々の企業のイネーブルメント組織の構築に尽力。セールスイネーブルメントをテーマとした講演実績も多数の山下貴宏氏の著書です。
定義や概念、イネーブルメントの必要性、構築方法、プロセス設計方法、といったことが説かれているだけでなく、Sansan、NTTコミュニケーションズ、セールスフォース・ドットコムといった具体的な企業の導入事例も紹介されています。
『営業力を強化する世界最新のプラットフォーム セールス・イネーブルメント』バイロン・マシューズ、タマラ・シェンク、富士ゼロックス総合教育研究所著
ミラーハイマングループの手法を、豊富なデータやベストプラクティス事例とともに紹介した「セールス・イネーブルメント」の超実践的ガイドブック。
セールスイネーブルメントの土台、セールスイネーブルメントのモデル紹介、提供サービスの詳細、営業成果の測定方法、未来のセールス像について、といった網羅的な構成で、セールスイネーブルメントへの理解を深められます。
おわりに
営業人材育成のカギである「セールスイネーブルメント」は、いまや営業組織変革に欠かせない営業DXを最大限に活かす土台作りにも繋がります。
ClieXito株式会社とは
当社ブリッジインターナショナルの子会社、ClieXito(クライエクシート)株式会社では、セールスイネーブルメント導入に向けたサービスをご提供しています。
クライアントの営業目標達成に向けてB2Bの顧客体験を軸にデジタル化による変革を支援するコンサルティングファームです。クライアントの営業戦略の方向性を示し、マーケティングと営業の実行力を向上、アナログ/デジタルチャネルの可能性を最大限に引き出すための組織間連携の強化を支援します。
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