新型コロナウイルスの影響によりフィールドセールス(訪問営業)がしにくくなった昨今。本来であれば訪問してクライアントと商談したいところですが、Web会議ツールなどを利用したオンラインでの営業を余儀なくされている企業も急増していることでしょう。
すでにコミュニケーションがとれている既存のクライアントであれば、オンライン営業への移行もスムーズかもしれません。しかし困難なのは「新規顧客の獲得」です。新規顧客獲得ができなくなれば、企業としての成長も停滞してしまいます。
そこで、新たな営業手法として取り入れたいのが「インサイドセールス」です。インサイドセールスとは、いわば訪問しない営業。この記事ではインサイドセールスのやり方をご紹介します。
【参考記事: 立ち上げの前に知っておきたい、インサイドセールスへの誤解とは?】
目次
注力サービスの選定と営業戦略の再策定
まずはインサイドセールスで取り扱う商品やサービスを絞り込みます。戦略設計においては、あれもこれもと大風呂敷を広げた状態ではいけません。「マネジメントの父」と呼ばれる経営学者ドラッカーが提唱し、米GE社の元CEOウェルチが広めた手法「選択と集中」が欠かせないのです。
注力先が決まったら次はターゲット(顧客)を設定し、セールスモデルを策定します。その際に考えなくてはならないのが、インサイドセールスを社内のどの部署に所属させるかです。マーケティング部門と併設させるのか、それとも営業部門と併設させるのか、またはインサイドセールス単独の部門を立ち上げるのか。つまり、インサイドセールスにどこまでの仕事を任せるのか、ということです。
立ち上げ・構築時の詳細については下記コラムをご参照ください。
インサイドセールス立ち上げ・構築に欠かせない4つのステップとそれぞれのポイント【コンサルタント監修】
インサイドセールスの手法1.ステージ分担型
「セールスステージ」に応じてインサイドセールスとフィールドセールスが分業する
インサイドセールスには大きく分けて3つの手法があります。それぞれの手法のメリット・デメリットをご紹介しましょう。
まずは「ステージ分担型」について。インサイドセールスとフィールドセールスが「営業プロセス」を分業する、最もよく知られた手法です。例えば「見込み発掘~見込み育成」をインサイドセールスが担当し、「提案・商談~クロージング」をフィールドセールスが担当します。
一定のラインや条件を境に「セールスステージ」を段階分けし、適切なタイミングでインサイドセールスからフィールドセールスへと顧客を引き渡します。引き渡す際の基準については「顧客セグメント」「案件規模」「案件タイプ」などに応じて事前に取り決めをしましょう。
ステージ分担型のメリット
- 担当するセールスステージが明確に分かれていることで、活動が専任化され生産性の向上が見込める
- 両者の特徴に合わせた分業体制が取れる
◦多くのターゲットへのアプローチが求められるステージ前半を、インサイドセールスが非対面で効率よく行える
◦一つひとつの案件に深く入り込んで提案することが求められるステージ後半を、フィールドセールスが対面でしっかりと行える
ステージ分担型のデメリット
- 顧客にとっては、インサイドセールスとフィールドセールスそれぞれの役回りがわかりづらく、混乱を招く可能性がある
- 次工程への引き継ぎや、前工程への差し戻しが適切に行われないと、分担ライン上に顧客が“放置”された状態となり、案件の取りこぼしにつながる
- プロセス全体の管理が適切に実施されないと、インサイドセールスとフィールドセールスとの間で責任の所在が曖昧になる
ステージ分担型が適している企業と導入のポイント
ステージ分担型の手法は、比較的大規模な企業や営業組織での導入が適しています。
インサイドセールスとフィールドセールスそれぞれが専任のプロセスを遂行するので、一般的に営業活動の生産性は向上しやすいでしょう。関係する全てのスタッフがステージ全体を理解し、基本戦略を共有していることが成功の条件です。
ステージ分担型のインサイドセールス導入事例
②事例にみる「足で稼ぐ」営業部隊とインサイドセールス部隊がプロセス分業し、新規案件開拓を進める方法(IT企業F社)
インサイドセールスの手法2.顧客分担型
「顧客セグメント」によって分担する
企業属性やテリトリー(地域)などに基づく「顧客セグメント」によって担当する企業を分担し、それぞれの担当企業に対して、インサイドセールスもフィールドセールスも全てのセールスステージを遂行する手法です。
顧客分担型のメリット
- インサイドセールスもフィールドセールスも、それぞれが全てのセールスステージを遂行するため、引き継ぎによる情報の齟齬などがなく案件の管理がしやすい
- インサイドセールスも提案・成約活動のプロセスを担当することで、よりモチベーションが向上しやすい
顧客分担型のデメリット
- インサイドセールスの担当顧客から訪問による商談を求められた場合、フィールドセールスにエスカレーションする手間が発生する
- インサイドセールスにも、クロージングまで完結させるスキルが求められる
顧客分担型が適している企業と導入のポイント
顧客分担型は比較的小・中規模の企業や営業組織での導入が適しています。「顧客分担型」のインサイドセールス手法は、売上目標や利益目標を設定することで、直接的な評価が行いやすい手法です。なお、インサイドセールスだけで営業活動を完結できる「顧客分担型」の例には以下のようなものがあります。
1. 「商材」によるセグメント分け
低単価な商材や、専門性は高いもののニーズが限られる商材などをインサイドセールスのみで完結します。一方、高単価な商材や、幅広い知識と複合的な提案スキルが必要な商材については、当初からフィールドセールスのみで対応します。
2. 「テリトリー(地域)」によるセグメント分け
分母の少ないテリトリーや、フィールドセールスの訪問が難しい遠方の顧客を、インサイドセールスのみで対応します。
3. 「契約状況」によるセグメント分け
休眠顧客の掘り起こしや、契約済顧客のクロスセル・アップセルを目的とした営業活動を、インサイドセールスのみで担当します。
インサイドセールスの手法3.個別チーム運営型
インサイドセールスとフィールドセールスからなるチームを編成する
個別チーム運営型は、インサイドセールスとフィールドセールスがひとつのチーム内で、適宜業務を分担して営業活動を遂行する手法です。インサイドセールスとフィールドセールスとが「1:1」から「1:3」の割合になるようチーム編成し、顧客状況や案件状況、作業負荷の状況に応じて二人三脚で顧客対応・営業活動に従事します。
プロジェクト発足の初期において、チームとして担当する顧客あるいはテリトリーに対する攻略計画を、それぞれ「アカウントプラン」「テリトリープラン」としてまとめることをお勧めします。これは、チーム内で目的がブレることなく営業活動を遂行するためです。
個別チーム運営型のメリット
- インサイドセールス/フィールドセールス間で、最適な作業負荷の配分が可能
- 顧客に対し複数の担当者が接することでフォロー体制が充実し、顧客満足度の向上につながる
- チーム内でインサイドセールスとフィールドセールスとが密に情報共有できるため、より戦略的なアプローチが展開しやすい
個別チーム運営型のデメリット
- チームの運営方法によって生産性が偏りやすく、営業部門全体としての管理が難しくなる
- それぞれの役割分担を明確にしないと分業体制が曖昧になり、インサイドセールスが営業の補佐的立ち位置になりがちである
- 密な情報連携やチームワークが求められるため、アウトソーシングには不向きである
個別チーム運営型が適している企業と導入のポイント
比較的小・中規模の企業や営業組織における導入が適しています。「組織づくり」の観点では一般的に「インサイドセールスは営業組織から独立させる」ことが重要ですが、「個別チーム運営型」においては、同じ営業組織内で互いに協力することが鍵です。
※「組織づくり」についての詳しい記事はこちらをお読みください。
インサイドセールス成功の秘訣は「組織づくり」
【関連記事:インサイドセールスとは?その役割・特長と導入の効果を徹底解説】
インサイドセールス組織の構築手法
インサイドセールスの手法を確立するには、組織構築と人材配置、そして人材教育といったポイントを押さえる必要があります。
詳細はインサイドセールス立ち上げ・構築ページの「3.円滑な営業組織づくりとプロフェッショナルの採用・配置・教育」という項目をご参照ください。
【参考記事:インサイドセールスの組織づくりのポイントと担当者に必要なスキル】
ツールの導入|インサイドセールスに必要なマーケティング・営業支援・顧客管理ツール
インサイドセールスは非対面で営業活動を行う手法です。スムーズな運用のためにはデジタルツールの活用が欠かせません。
MA、SFA、CRM、Web会議システムなどの各種ツールについての解説は、下記ページで展開しています。ご参照ください。
商談を成功に導く「業務手順書」の準備
インサイドセールスによるヒアリングや商談中に顧客からの質問に的確に答えられないと、不信感につながり商談に障ることもあります。そうならないためにも、さまざまな手順書を用意しておくことをお勧めします。
トークスクリプトの作成
トークスクリプトは営業トークの台本のようなものです。どのような流れで話を持っていけば成果につなげられるのか、あらかじめトークのフローチャート図を頭に入れおいて展開していくのです。
フローは顧客によって臨機応変に変えるものですが、チャートがすでにあるのとないのではトークのスムーズさも変わってきます。もちろん人との会話なのでトークスクリプトの通りに話が進むとは限りません。しかし、いくつかパターンを用意しておくことで、メンバーの業務習熟度に関わらず、落ち着いて対応することが可能です。
顧客が感じている課題と、自社が注力したい商品・サービスをマッチさせられるトークスクリプトを用意しておきましょう。
ヒアリングシートの作成
営業活動において、顧客の状況や課題をメンバー同士で共有することは重要です。まず基本的な情報としてヒアリングすべきなのは、BANT情報。
BANTとは、Budget(予算)、Authority(決裁者)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)の頭文字を取ったものです。これらをヒアリングをすると、顧客の意向に沿った提案活動が早期に可能になります。
また、顧客が検討段階なのか、あるいは購入段階なのかを把握しておくことも今後の営業展開を決める上で重要です。
【参考記事:BtoB営業とBtoC営業の違いからみるBANT情報の重要性〜インサイドセールスが法人営業に適している理由〜】
よくある質問と回答例の作成
顧客から投げかけられるあらゆる質問に対し、すべてのインサイドセールスメンバーが即対応できるように、「よくある質問集と回答例」を作っておくと効率がいいでしょう。
インサイドセールス部門を立ち上げたばかりの場合は、フィールドセールスにアンケートを取るなどして協力を仰ぎ、Q&A集を洗練させましょう。
PDCAの実行|課題を解決していくマネジメントサイクル
インサイドセールスを成功させるためには、日頃のマネジメントが非常に重要です。そこで、インサイドセールス業務における基本的なPDCAサイクルについてご紹介します。
【参考記事:インサイドセールスを成功に導くマネジメント手法と上司の役割】
1.PLAN
・顧客の動向を調査、分析し、ターゲティングを明確化させる
・ターゲティングに寄り添った施策を立案する
・成果指標(KPI)の設定を行う
2.DO
・ヒアリングを実施し、顧客状況の確認を行う
・ヒアリングに基づき顧客が抱える課題を特定する
・顧客の課題をクリアできる情報を提供することで、興味喚起を促す
3.CHECK
・KPIの進捗状況を確認し、活動に対する成果をみる
・KPIの進捗状況から阻害要因を特定する
・阻害要因に対する施策を考え、効果を検証する
4.ACTION
・営業活動における全体的な改善策を立案する
・立案された改善策をもとにNEXTアクションを計画する
・トークスクリプトなどの手順書の改定を行う
・営業活動で得たナレッジを共有する
このようなPDCAサイクルを回すことによって、より安定して精度の高いインサイドセールス活動を実現できるようになります。
おわりに
インサイドセールスの手法・やり方をご紹介しました。インサイドセールスの活動目的を明確にし、ノウハウを確立して日々のPDCAを回していくことでチームは強化されていきます。関連する営業やマーケティング組織だけでなく、企業全体の成長と発展にもつながっていくことでしょう。
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