インサイドセールスは、営業効率の向上や人手不足解消の手段として、近年多くの企業から注目を集めています。業界・業種を問わず、あらゆる営業組織に取り入れやすいことも導入が進む理由のひとつです。
この記事では、数ある業界・業種の中でも「製造業」について取り上げます。
製造業界はいま、顧客ニーズの変化や深刻な人手不足、製造ラインの自動化など次世代に向けて取り組むべき多くのタスクを抱えています。他の業種と同様、コロナ禍において従来通りの案件創出が難しい局面を迎えながら、技術・開発部門に比べて営業部門の改革は後回しになっている企業が少なくないようです。
今回は、インサイドセールスの向いている業種・業界として、製造業の営業改革にインサイドセールスが有効な理由についてご紹介します。
目次
製造業に訪れている変化とは
顧客ニーズの変化|モノの所有から体験やサービス重視へ
近年、顧客の購買に対する価値観は大きく変化しました。IoT化によってさまざまな情報がリアルタイムに行き交うようになり、人々の欲求はモノを所有することから、モノを通じて得られる体験やサービスへと移りつつあります。
目覚ましい技術の発展によってメーカーごとの機能の差はほとんどなくなり、新たな製品が登場しても、新機能の追加やわずかなモデルチェンジに顧客は昔ほど大きな魅力を感じなくなりました。またカーシェアリングなどに代表されるように、モノをサービスと捉えて利用する形態が増え、製造業にも「サービス化」が叫ばれ始めています。
IoT化・DX(デジタルトランスフォーメーション)の影響
このように個人の価値観は、高機能で話題性のあるモノを持つことよりも、モノを通じて特別な体験をしたり、体験を他者と共有することに充足感を求める形へ変化しています。
一方、企業の購買に対する価値観もまた、業務の効率化や経費節減といった直接的な効果だけでなく、自社の発展や売上拡大に繋がる「付加価値」の部分がより重要視されるようになりました。
こうした企業の価値観の変化には、DX(デジタルトランスフォーメーション)の動きも大きく影響しています。DXは単なるデジタル化が目的ではなく、デジタル化の先にあるビジネスの変革や事業の拡大を見据えています。
そのため設備投資にあたっても、その製品自体に求められる機能や性能はもちろんのこと、同時にデータの管理・分析が行えたり、マーケティングの一部を代行してくれるようなサービスが付加されていることが、購買の決め手となるケースが増加しています。
例えば、印刷業のDX化を推進するデジタル印刷機について考えてみましょう。これまでの印刷業を牽引してきたアナログ印刷機は有版印刷と呼ばれ、印刷物ごとに「版」を作成しインクをつけて印刷を行います。それに対しデジタル印刷機は、データから直接印刷することが可能なため「版」作成の手間やコスト、調整用の大量の予備紙などを削減できます。また、印刷データのデジタル管理によって製作工程を抑えられるというメリットもあります。
さらに最近では、印刷物そのものをIoT化する技術が進み、紙にICタグのようなテクノロジーを埋め込んで所有者の行動データの取得・追跡を可能にする新たな試みも生まれています。これまでは、購入者の手に渡った後の動向を知ることは困難でしたが、こうしたデータにこそビジネスチャンスが眠っており、マーケティング施策への活用は企業にとって大きな付加価値となり得ます。
「顧客視点」のビジネスモデルへの転換
このように製造業界は、いまや「良い製品を作るだけでは売れない」時代を迎えています。製品そのものの機能や性能面による価値提供から、より顧客の課題に寄り添ったソリューション型ビジネスモデルへの転換を求められているのです。ソリューションが「問題解決」を意味する通り、顧客の抱える課題に寄り添い、時には課題発見の段階から共に解決を目指す伴走型のビジネスモデルです。
これは決して、日本の製造業が誇る勤勉さや品質の高さ、Made in Japanのブランド価値が低下したということではなく、製品開発をベースとした価値提供だけでは顧客ニーズの変化や技術面での差別化に対応できず、事業の維持・拡大が難しい局面を迎えていることを意味します。
製造業の営業改革はなぜ進まないのか?
製造業界が「顧客視点」のビジネスモデルへ変革を迫られる一方で、営業部門の組織編成や活動方法は大きく変化していないと言われています。製造業が「サービス化」の道を開拓するにあたり、営業部門も課題解決型の「ソリューションセールス」や「ビジョンセールス」へとシフトしていく必要がありますが、なぜ営業の改革はなかなか進まないのでしょうか。
ここには、製造業界ならではいくつかの理由があります。
製造業が抱える営業課題
製造業の営業現場には以下のような課題が存在すると言われています。
- 開発部門と営業部門の連携が取れていない
- 深刻な人手不足
- 製品ごとに営業部門を設けているため、営業ナレッジの共有ができていない
- 紹介案件を受けづらい
- サービスや付加価値を売るノウハウが不足している
なかでも、本業の「モノづくり」への投資が優先されやすいことや縦割りの組織編成によって、営業組織に対する投資が後回しになりがちというのが、営業改革を遅らせる要因となっているようです。
「モノづくり」への投資が優先され、営業改革が後手になる
製造業の本業は言うまでもなく「モノづくり」であり、高い技術や品質の均一化がより良い製品作りを支えています。そのため企業は、何よりもまず製造現場の効率化を優先する傾向にあります。
これまでばらばらに行ってきた受発注情報の一元化や、製造ラインの空き状況と受注数の調整、自社工場のIoT化など、製造業の現場では取り組むべき課題が山積みの状態です。そういった製造業ならではの理由から、他の業種に比べて営業の抜本的な改革がどうしても後手に回ってしまう環境があるのです。
縦割りの組織編成によって、技術・開発部門と営業との連携が不足する
製造業が製品と同時にサービスを提供していくにあたっては、顧客のニーズや、自社製品(競合製品)が市場でどのような使われ方をしているのか、調査・反映させるフローが欠かせません。
自社製品がより顧客に支持されるためには、本来、開発前段階から顧客と共に取り組むことが理想的であり、顧客ともっとも多く接する営業部門と、技術・開発部門とが密に連携することが重要です。ところが多くの企業では、営業と技術・開発部門との関わりが十分に持てていない状況です。
インサイドセールスが製造業の企業にふさわしい理由
これからの製造業の営業に求められるスキルとは
製造業における従来の営業は、自社製品を顧客に提示して納得してもらえれば成約となる、いわば製品ありきのアプローチです。営業の役割が明確である一方、担当営業個人のスキルに頼った属人化の傾向が強く、売上予測が立てづらいという課題もありました。
しかし、製造業が今後「顧客視点」のビジネスモデル確立を目指す過程において、製品の機能面だけでなく、サービスや体験などの付加価値も併せて提案するスキルが求められます。顧客の置かれる状況や課題を理解し、顧客と一緒に最良の解決策を考える方法です。
顧客の企業単位の課題解決へ踏み込むには、購買担当部署や機器管理・保守などの限られた担当者だけでなく、経営層やDX(デジタルトランスフォーメーション)担当部署など、より広い範囲の人物と接触することが避けられなくなります。これまでと別の視点からより深い提案が求められ、今まで以上に多くの知識や課題解決力・交渉力やヒアリング力を要するでしょう。
インサイドセールスは課題解決型の営業である
製品を軸とした営業は、自社製品の良さをアピールする能力や狩猟型のアプローチには大変長けていますが、「付加価値」を提供することにはそれほど向いていません。「営業」の概念自体が異なるため、組織単位・個人単位での意識改革が必要です。長い時間をかけて確立されてきた伝統的な営業部門に「ソリューションセールス」の文化を根付かせるには、多くのコストを伴うでしょう。
一方インサイドセールスは、電話やチャットなど非訪問の手段を軸に営業活動を進めます。相手の表情やしぐさといった非言語情報が得られにくい分、多角的な情報提供やヒアリング力に長けています。決してアポイントの数だけを競ったり一方的な商材説明に徹したりせず、顧客の真のニーズや課題を引き出すことに注力する、まさに課題解決型のアプローチと言えます。
インサイドセールスは市場調査にも貢献する
インサイドセールスは高度なコミュニケーション能力を持ち合わせており、顧客の課題解決に役立つ情報を提供しつつ、会話の中からマーケットの最新動向などを拾い上げることも得意です。
既存の組織編成では営業と開発部門の連携が難しい場合でも、インサイドセールスが顧客と開発部門との間に入ることで、市場の声を製品開発へ反映させる仕組みを構築できます。インサイドセールスは営業と技術・開発部門との溝を埋め、より良いモノづくりを支える役割も担えるのです。
【参考記事:インサイドセールスとは?その役割・特長と導入の効果を徹底解説】
【参考記事:インサイドセールス担当者に求められるスキル】
おわりに
製造業界はいま、顧客ニーズの変化やビジネスモデルの転換など、ひとつの過渡期を迎えています。モノづくりに対する誇りとともに培われてきた製品ベースの営業は、ソリューション型アプローチへの転換を受け入れがたい側面を持ち、既存の営業組織を変革させるのは容易ではありません。
インサイドセールスは、自社の営業組織やリソースに合わせて取り入れ方をカスタマイズできることも大きなメリットです。現状の営業人員を削減せずにアウトソーシングから始める企業も多く、少人数からの動員も可能です。営業改革の必要性を感じながらも、良い打開策が見つからないという企業こそ、まずは専門業者への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
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